ラバー
フランスの奇才クエンティン・デュピューが放つ、殺人タイヤムービー。砂漠に打ち捨てられていたタイヤのロバート。そんな彼にある日突然、どういうわけか命が宿ってしまう。おまけに荒涼とした砂漠をさまよっているうちに、恐ろしいテレパシー能力を持っていたことが判明。なんと自身が動かなくても壊したいと念じるだけで物を破壊できてしまう。最初のうちは砂漠の小動物やゴミを狙っては壊していたが―。R15+指定作品。
2012年の「未体験ゾーンの映画たち」で興味を持ったものの、レンタルがTSUTAYA限定ということもあってなかなか見る機会のなかった作品でした。
ところが今年の「未体験ゾーンの映画たち」ではイベントの一環として、青山シアターにて過去の上映作品の一部が無料で視聴できるのです。
その中にこの作品も入っていたので見ることが出来ました。
(なお、すっかり忘れていて無料期限ギリギリに慌てて見ました)
想像していたのはタイヤが次々に人を殺す、陽気でおバカなZ級映画だったのですが実際の印象はちょっと違うものでした。
- 全てに意味が無い演出
- 観客すらメタな視点でオマージュにしてしまう演出
- 映画に「意味」が必要なのか?という問いかけに見せて、実は何も考えてない演出
冒頭、道いっぱいに広げて置かれた椅子をひとつひとつ倒しながら車がこちらに向かってきます。
停止した車のトランクから現れた保安官は水の入ったコップを持ったまま、こう語りかけます。
「E.T.」のエイリアンはなぜ茶色なのか、「ある愛の詩」の二人はなぜ恋に落ちたのか、そこに理由など無いのだ。
偉大な映画には理由なき重要な要素が入っている、なぜなら人生それ自体が理由のないことの連続なのだ。
この映画は理由がないことへのオマージュである。
こう言われてしまうと、見ているこちらも「そういうものだ」と見るしか無くなります。
先ほどのシーンで椅子を倒したことも、トランクから現れたことも、コップを持っていることも、すべて理由は無いのです。
タイヤに命が宿り、破壊衝動に芽生えて殺人をしようとするのも意味は無いのです。
なぜ?と考えるほうが間違いとなる映画なのです。
こんな視点で作られた映画ですので、全てがシュールです。
そこに意味など無いのですから仕方ありません。
さらに「作品」だけでなく、「観客」すらもメタな視点でオマージュしてしまいます。
生命の宿ったタイヤの物語を双眼鏡で覗き続ける老若男女。
彼らの目を気にして「演技」を続ける出演者が、「観客」を毒殺し自由に振る舞おうとする。
でもそこに意味や理由などはない。
シュールすぎます。
もちろんタイヤがシャワーを浴びたり、プールに入ったり、F1レースを眺めたりという笑えるシュールな映像も楽しめます。
しかしそういった映像の異常さよりも、世界観の異常さのほうがより大きいんですよね。
何もかもがシュールで、それでいて全てが何かの寓意のように見えてきて、けれどきっと実のところは何も考えていない。
人によって、両極端に評価が分かれそうな映画ですが私にはそんな世界観が私にはたまらない映画でした。
明日までなら青山シアターにて無料配信されていますので、騙されたと思って見てはいかがですか?
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作品情報
原題:Rubber
制作:2010年、フランス、Realitism Films
監督:Quentin Dupieux
主演:Stephen Spinella
時間:82分
トレーラー: